山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

のぞみ台車亀裂事故についての時系列見解

2017年12月21日

diamond.jp

違うと思います。東海道新幹線は、”超過密ダイヤ”なんかではありませんが(過密だったら、時速300キロ弱なんて無理)、昼間でものぞみは1時間に10本以上走っているので、1本くらい間引いても、どうってことはない。問題の根底は、新大阪でJR西からJR東海に乗務員が引き継ぐ際に、「問題ない」と引き継いでしまったことにあると見ます。つまり、運行現場でも「異常あり」という認識が共有されなかった。この蛸壺的な組織構造が問題の核心ではないでしょうか。従って、運行指令が現場の声を黙殺したとかなんかとかいうのではない。JRの企業風土がどうのという話ではないでしょう。そもそも、運行指令は走行している列車を差配するのが役割であって、技術的な判断をする立場にはないはずですが。

 

【昨日の続き】(2017年12月22日
実は、検査と言っても、いくつかのフェーズがある。具体的には、毎日行う1次検査(”仕業検査”)、週単位で行う2次検査(”交番検査”)、月単位で行う3次検査(”全般検査”)に分けられる。車両を解体し、全ての部品をチェックするのは3次検査である。通常の毎日の検査(1次検査)は、部分検査しかしない。1次検査で全てを検査するわけでは、ないのである。こうすることで、第一種の過誤が過大にならないようにしているのである。

統計学的には、誤りといっても、”あわて者の誤まり”(第一種の過誤)と”ぼんやり者の誤まり”(第二種の過誤)がある。両方をゼロに近けることはできないことが、数学的に証明されている。この両方が適切な範囲に落とし込まれるように、検査項目の設計をする。今回のインシデントは、現状の1次検査は範囲が狭すぎる(第二種の過誤が、大き過ぎる)ことをあぶりだしたのです。これは、科学的な妥当性の追求であって、安全最優先の意識が高い/低いといった問題ではないのですよ。

www.nikkei.com

 

【その2】(2017年12月23日

>トラブルの原因を調べている運輸安全委員会は、今回の亀裂は走行中に突発的に生じたものでなく、過去から存在した細かい傷が走行で広がったとの見方を示す。

2次検査(交番検査)の範囲を広めようという動きですね。トラブルの予兆を捉えるには、1次検査では無理です。妥当な決断だと思います。

www.nikkei.com

 

【その3】(2017年12月25日
絵に描いたような、スイスチーズモデルのインシデントといったところか。

>今回のトラブルでは、JR西日本の保守担当者と指令員とのコミュニケーションの不備が明るみに出たが、はたしてJR西日本JR東海のコミュニケーションは適切に行われていたのだろうか。
この観点こそ、今回のインシデントの本質と見る。時系列でどこで誰に何が起きていたのか、丁寧に再現することが求められる。「コミュニケーションの問題」と言うだけでは、今回の問題解明にはならない。”安全最優先の企業文化ガー”などとしたり顔でのたまう輩は、邪魔だから引っ込んでろ。

toyokeizai.net

 

【その4】(2017年12月27日
当該技術インシデントについて、まだ何も情報が出ていないのにも関わらず、推測で記事を書くならまだしも、あろうことか社説で抜き出し合戦を繰り広げているとは。。百害あって一利なしの新聞社の自己満足を賞賛するとは、あまりに技術感覚に乏しく、科学技術に対する敬意が全く見られない。独善的な視点の特集記事に、今回も憤りを覚える。

president.jp

 

【その5】(2017年12月28日

ようやく、何が起こっていたか、判り始めて来た。

>指令員は隣にいる上司の問い合わせに応じるため受話器を耳から離し、
>この提案を聞いていなかったという。
ちょっとお粗末すぎる話なので、正直、状況をそのまま報告しているとは思えない。続報を待ちたい。

>指令員は「運転に支障があるなら保守担当が明確に伝えてくれる」、
>保守担当は「指令員がどこで点検するのかを調整してくれている」と思い込んでいたという。
これでは、”安全文化が未成熟”と言われても仕方がない。お互いに役割を押し付け合っていたからだ(逆に言うと、昨日以前の”安全文化”についての議論がいかに根拠のないものだったか、わかろうものである)。

www.nikkei.com

 

 

【その6】(2017年12月28日
>今回は小倉駅発車時(運転開始の約20分後)から、
>走行中の車内で異臭や異音が何度か報告されたようだが、
>このような報告は日常茶飯事で、
>そこから重大問題を発見して適切に対処するのは簡単ではない。
>マスコミが結果を見てから関係者の対応を叩くのは、
>誤解を恐れず言わせていただければ“後出しジャンケン”である。

以前にも書いた、検査における”第一種の過誤 ”と”第二種の過誤”をどう按配するかという課題が、この記事にも取り上げられている。

一方、「亀裂を見たことがない技術者が増えている」という状況は、かなり深刻な問題である。元凶は、国鉄分割民営化後に新卒採用をしばらく止めたことなので(これ自体は、仕方がない)、非言語的技術伝承の仕方をより真剣に考えないといけない。

toyokeizai.net

 

 

【その8】(2018年1月9日
安部誠治関西大教授「異常があったら運行を止めるという考え方が現場まで浸透していなかった。組織として問題がある」

どういう文脈でこのような見立てをしたのか判断材料が記事にないので、評価のしようがない。 

 

www.nikkei.com

鉄道再改革待ったなし、30年間の軌跡と展望を総括せよ

ちょうど30年前の4月1日に、年間2兆円の赤字体質だった旧国鉄が分割民営化され、JRグループが誕生した。30年の間に、JR本州3社は完全民営化を果たした。一方、“三島会社”のうち、JR九州は株式上場にこぎつけたが、JR北海道JR四国は厳しい経営下にあり、特にJR北海道は、このままではあと3年で資金ショートになるという、極めて厳しい経営環境下にある。

 

私は、分割民営化が誤りだったとは考えていない。分割民営化の妥当性は、本州3社の採った戦略の違いを見るとよい。JR東日本は、特急電車の充実と新幹線の利便向上いう戦略を採り、鉄道需要の掘り起こしに成功した。JR東海は、売り上げの9割を担う東海道新幹線の速度向上に専念し、“のぞみ”を中心とした利用客の増加を今日まで続けることに成功した。一方、JR西日本は、関西圏在来線の速達性向上により、競合私鉄との競争に勝ち、乗客数の増加に成功した。これらの地域間競争により、本州3社については、赤字体質からの脱却どころか、完全民営化まで成し遂げることができた。これは、この“粒の”大きさでの“分割”民営化が適切であったことを示しており、国鉄改革は一定の成功をしたと言って良い。

 

一方、JR北海道に目を向けると、約半数の路線が存続の危機にある。全ての路線を維持すべきとは思わないが、北海道の気候を考慮すると、“幹線”(“〜〜本線”)の存続は必要だと考える。鉄道は、大雪でも機能できる唯一の交通モジュールだからだ。幹線が廃止されれば、大雪の季節に、北海道民は移動の権利という基本権を失う。私は、JR北海道は列車の運行に専念し、インフラ維持は国・北海道が負担するという形での公営(いわゆる、“上下分離”)にするべきだと考えている。JR東日本に強引に合併させるなど、絶対にやってはならない。この国は社会主義国ではないからだ。これは、JR四国についても同様である。

 

今後を考える際には、なぜ、ここまで利用者が激減したのかに目を向ける必要がある。少子高齢化や地方過疎化、IT革命による交通需要そのものの減少などもあるが、JR北海道JR四国に関しては、高速道路網整備の影響が大きい。国の役割・責任を追究する事も必要だが、地方でもどんどん自動車専用道路を作っている。これではクルマに利用が流れるのは必然である。そこで“鉄路活性化”を叫ぶのは、言っていることとやっていることが一致しない。即ち、国はJR北海道・四国の管理者・株主でありながら、同時にこの二社の首を真綿で絞めることを続けてきたのである。今後は、鉄道・車・航空機等で整合性の取れた一貫した交通政策が必要である。

愚かなる四半世紀来の笑止千万な我田引鉄政策決定

整備新幹線”である北陸新幹線の未着工区間について、その経由ルートが与党内で正式決定した。

”新幹線”とは何か。利用客の多い”幹線”に代わり、より速く大量に輸送することを目的とする交通機関のことである。建設基準は”速いこと”、そして利用者の負担する運賃は当然のことながら、より”安いこと”。これのみである。したがって、建設ルートは、拠点都市間を最短で結ぶものが望ましい。ここでいう拠点都市とは、現行の在来線特急が停車する京都のみである。

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北陸新幹線の敦賀以西整備案、どさくさで決めるな!

みなさん、こんばんは。 今日の日テレニュースで、”北陸新幹線「小浜ルート」最有力へ”というニュースが出ています。

www.news24.jp

北陸新幹線福井県敦賀市から新大阪駅までの区間について、与党のプロジェクトチームが福井県小浜市を通るルートを「最有力」の案として採用を検討していることが明らかになった。
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JR九州、東証上場決定!!

今日は、鉄道関係者には歴史的な日になりました。

JR九州東京証券取引所への株式上場が本日15日、承認されました。東証1部の見通しで上場日は10月25日。想定売り出し価格に基づく株式時価総額は約4000億円になる見通しで、今年では7月のLINEに次ぐ大型上場になるとのことです。

 

国鉄が分割民営化された約20年前、一体、誰がこのようなことを想像したでしょうか。

首都圏・東海道新幹線・関西圏/山陽新幹線というドル箱をそれぞれ持つ、JR本州3社ですら、せめてJR東だけでも黒字になってくれればという想いが、分割民営化当時はあったのです。分割民営化直前の国鉄は、売り上げの倍の額の借入金を毎年していました。鉄道事業は”斜陽化”が叫ばれ、鉄道事業だけで採算を取ることは、日本、いや世界中で不可能だと考えられていたのです(「ヨーロッパでは、鉄道が発達しているではないか」と思われるかもしれませんが、インフラ部分の経営は税金で担っています)。いわゆる三島会社(JR九州JR四国JR北海道)の経営は絶望的で、いずれ第二の国鉄改革が必要になるというのが、業界関係者の共通認識だったと思います。今日決まったJR九州の上場は、国鉄改革の想定を良い意味で裏切りました。

JR九州は、豪華設備を誇る”或る列車”や豪華クルーズトレインの”ななつ星”、それに”ソニック”や”かもめ”などの個性的なデザインの特急列車など、鉄道ファンにとっては話題に事欠かない鉄道会社ですが、それは鉄道経営が苦しいことの裏返しだったでしょう。実際、鉄道部門が黒字化したのは、ここ1年余りの話なのです。JR九州の主な収入源は、駅ビル・不動産事業などのサービス部門・非鉄道部門です。周辺産業に力を入れる余り、本業部門がおろそかになるのは、公共交通の観点からして考えものですが、JR九州に限って言えば、その心配はなさそうです。ようやく黒字化した鉄道部門をどのように軌道に乗せるかがこれからの課題でしょう。

株式上場は目標・ゴールではなく、手段すなわち新たなスタートです。JR九州がこれからどのような経営を見せるか、注目です。

【報道発表】
「三島会社の長男坊」意地の上場 JR九州、東証が承認:日本経済新聞
JR九州が上場へ、売出規模は約3920億円 | ロイター
JR九州の株式上場を承認 来月25日の予定 | NHKニュース
10月25日上場、JR九州の課題と拡大戦略 | 東洋経済オンライン(大坂直樹)

【参考書籍】
「国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」」葛西敬之(中央公論新社)
「未完の「国鉄改革」―巨大組織の崩壊と再生」葛西敬之(東洋経済新報社)
「なせばなる民営化JR東日本―自主自立の経営15年の軌跡」松田昌士(生産性出版)
「鉄道経営の21世紀戦略」角本良平(交通新聞社)
「鉄道政策の危機―日本型政治の打破」角本良平(成山堂書店)
「JRは2020年に存在するか」角本良平(流通経済大学出版社)
「国鉄解体―JRは行政改革の手本となるのか?」草野厚(講談社文庫)
「鉄客商売」唐池恒二(PHP研究所)
「企業研究」本ランキング!JR九州躍進の物語が売れる理由|人生にもっと本を。from honto|ダイヤモンド・オンライン

他、多数。

【10.24追記】
JR九州会長:旧国鉄赤字路線引き継ぎ苦難の道、逆境が多角化に弾み - Bloomberg

ホーム転落死亡事故は、ホームドアがあれば防げた。しかしながら…

視覚障害者の方が線路に転落し、電車にはねられて死亡するという大変痛ましい事故が起きてしまいました。視覚障害者のホームからの転落事故は年70件以上、発生しているといいます。これの防止策は、ホームドアを設置することです。100%完全に、このような事故を防ぐことができます。転落事故だけでなく、飛び込み自殺も完全に防ぐことができます。

では、なぜ鉄道会社はホームドアの設置をなかなか進めないのでしょうか?
例によって、鉄道会社が利益追求に走るあまり、利用者の安全をないがしろにしているのでしょうか?
そうではありません。
ホームドアの設置が進まない理由は、1)技術的理由と2)費用的理由、の2つがあります。

1)技術的理由
ホームドア自体の基本的な技術は、既に完成しています。したがって、一部の路線や駅ではホームドアが設置されています。では、なぜそれ以上の普及が難しいかというと、列車によって、扉の位置がバラバラだからです。ホームドアが設置されている路線では、すべての型番の車両の扉が同じ位置にあります。しかし、車両によって、3つドアだったり4つドアだったりする路線では、現在設置されているようなホームドアの導入はできません。
これを解決するため、ホームドア自体が動くような設備の研究が進んでいます。また、ドアではなく、上下にロープを上げ下げする設備の研究も進んでいます。これらは、普通のホームドアに比べると安全性は落ちますが、それでもあるのとないのとでは、安全性に天地雲泥の差があります。これらの設備はまだ研究段階であり、また、それ以外の技術的問題もあります。

2)費用的理由
あまりピンとこないでしょうが、整備新幹線1本作るのに、大体数千億円かかると言われています。これに比すと、数百億円単位のホームドアの設置は、鉄道会社にとってはあまり現実的ではないことがお分かり頂けると思います。これでは整備が進まないので、国交相補助金制度があります(国交省資料)。緊急度の高い路線から順番に導入していくことになるので、例えば首都圏(関東圏)でホームドアの設置が完了するのは、かなり先の話になります。
(例えば、私がいつも使っている小田急線では、土地買収に失敗した下北沢駅のホームが極狭になってしまっているのですが、今のところ、ホームドアの設置計画はありません)

ホームドアの設置は、この二つの点をクリアしないと前に進まないので、それまでは、ハード面ではなく、ソフト面で対応するしかありません。単純に配置人員は増やせられません。視覚障害者の方に言わせると、ホームドアのない駅を歩くのは、欄干のない橋を渡るようなものだと言います。みんなで知恵を絞る必要がああります。

【参照資料】
読売新聞 2016年8月19日社説
産経新聞 2016年8月19日社説
転落事故のホーム 視覚障害者が危険性を検証(NHK8月19日)
視覚障害者協会が転落防止策を提言へ 「こういう駅こそホームドアを」(読売新聞8月19日)

他、鉄道専門誌など

【その後のメディア報道】
東京メトロのホームドア導入はなぜ路線によって格差があるのか?(産経新聞8月28日)
JR東、新型ホームドアを試験導入へ=軽量化、設備コスト半額(時事通信9月7日)
ホームドア設置補助を増額 障害者転落事故受け政府方針(東京新聞9月8日)
「ホームドア設置急いで」 日盲連、転落事故受け、石井啓一国交相に駅安全強化要請(産経新聞9月16日) 

山口修司V.S.永瀬和彦@交通ビジネス塾

昨晩、ライトレール社主催の鉄道勉強会に参加してきました。今回の講師は、鉄道事故研究の第一人者に近い永瀬和彦KIT客員教授。私は、修士論文で、福知山線脱線事故を研究動機とした、組織事故防止のためのリスクマネジメントを研究していたので、いつか直接お会いして、いろいろお聞きしたいと思っていた方でした。昨日の議論を復元すると、単位レポートが書けちゃうので、できるだけ簡潔に。

私が事前に提出した質問は以下の通りでした。

福知山線脱線事故について
1.事故調査委員会が最終報告書で示唆した、事故原因といわゆる”日勤教育”との因果関係について。
2.メディアの成熟度について。例えば、「過密ダイヤ」「軽量化アルミ車両」「余裕時分」に対する誤解のありようについて
3.組織罰など、事故の責任論について。

【永瀬先生の見解】
1.死亡した運転士が大幅なスピード超過をした理由
死亡した運転士はオーバーランを連発しており、相当なスピードマニアだった?(メディアで言われているような、定時運行のプレッシャーによるものではない!)←こればかりは断言されていました。
事故調のレポートは捏造された、いんちきレポートと言って良い。

2.マスコミの言っていることはめちゃくちゃ。
運転時間の余裕は事故現場の塚口ー尼崎間で45秒あり、かなり余裕があった。裁判でも認定されている。
→ダイヤの余裕に関するメディアの見解は、明確な誤りである。

なんでマスコミ・新聞がめちゃくちゃなことをいうかというと、事実を書いても駅での売り上げが減ってしまうので、デスクや社会部長(かなりトップに近い方)が認めない。キヨスクで記事が見やすい配置をしているので、JRの悪口を書けば売れる。←参加者から同様の意見あり。

3.責任論
刑事責任を受けないからといって、現場の声をきかない、いい加減な経営者はほとんどいないのではないか。刑事責任以上に、社会的な制裁を受ける。それがJR・大手の経営陣の実体では?

私の最新見解は、外部ブログに書いてあります。ご関心のある方は、そちらもご覧ください。