山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

JR西「恐怖の研修」=”体質の象徴”、ってホント?


久々に、頭に血が上るほど腹が立った。JR西に対してではありません。このコラムの筆者に対してです。くだんの研修が有効かどうかという議論は、さしあたり、横に置いてみたい。

本コラムが決定的に説得力を持たないのは、タイトルの「恐怖の研修」と「変わらぬ体質」とが、全く理路がつかないからです。福知山線脱線事故と関連づけているのも、普通に読んだら、意味不明。
実は、”体質”とか、”組織文化”と言った言葉の学問的定義は、ありません。基本的に、〈体質〉を振りかざして批判する輩の言動には、眉に唾を付けて聞いた方がいい。そんなもんがあるなら、一応当該分野の学識経験者である私にも、教えて欲しいですわ。人の集合でしかない”組織”について、組織の構成員とは別に、新たに〈体質〉といった人間性が宿るという考えは、不適切であるばかりでなく、危険ですらあります。大東亜戦争を引き合いに出すまででもありません。

それでは説明がつかないから、結局、国鉄改革三人組の一人であった、井手正敬氏の人格のせいにする。国鉄改革を勉強すれば、彼の発言の真意が読めるのですが、それをしようとしないのは、著者の怠慢そのものですよ。井手氏が改革三人組であったことが諸悪の根源なら、井手氏と似たようなマインドセットをトップが持ったJR東やJR東海でも、それこそ「同じようなことが起きる」はずです。起きてないですよね。説明にならないのです。

それから、筆者の松本さん、じゃあ、お聞きしますけど、「安全優先」の確立度合いって、どうやって測定・評価するんですか?それは、完璧な〈安全優先〉の度合いが存在し、その下では、全く事故やトラブルが起きないという、”絶対の安全”が存在するという、科学的にありえない発想です。つまり、本記事コメント欄より引用させて戴ければ、「安全は、どこかのすごーい誰かが考えて、常に完璧で提供してくれなきゃ、嫌だ、とかいう幼稚な超絶甘ったれ思考停止意識高い系の浅はかな思いつきと同じレベル」ですよ。組織は、所詮人間が作ったシステムなので、そんなものは存在しないのです。まさか、JR東や大手私鉄と比べているんじゃあ、ないでしょうね。JR東も大手私鉄も、毎日のようにトラブルが起きていますけれど。

「安全最優先の組織に生まれ変わった」って、何を以って、どの時点で評価するんでしょうか。以上の議論を踏まえれば、そんな瞬間は、未来永劫訪れないことが、ご理解頂けると思います。トラブルを絶対に起こさない組織なんて、存在しないのですから。リスクマネジメントの基本中の基本、大前提です。こんな初歩的なことも分かろうともしない人が、”組織文化”とか”体質”とか”安全最優先”とか、言わないで欲しいです。ご本人は正義のつもりなのでしょうが…。

 

(書き下ろし)