山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

『緊急企画 新型コロナウイルスによる未曾有の危機に鉄道業界はいかにして立ち向かうか?』参加レポート

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参加・拝聴しましたが、賛同しかねる点が多すぎて、言葉を失いました。

JRHDなど、ありえない!!

なぜなら、国全体で、赤字路線の内部補助をすることになるのですから。それは旧国鉄の再来以外の何物でもありません。国鉄分割民営化の経緯を、ちょっとは勉強してくれ!!ちなみに、日銀が企業債務を買っているのは金融市場にキャッシュを供給するためであって、特定の企業を支援する財政政策ではありません。この国は社会主義国ではありませんので。

内部補助は、鉄道会社に限った話ではないので、一定の説得力を持ちますが、それは路線ネットワーク性という企業ブランドの向上に帰する場合であり、いわゆる”枝線”は廃止対象になることが多いのは周知の通りです。地域内補助ではなく全国的補助となれば、その基準は緩くなります。

「赤字を理由に廃止をするのは誤り」という考えは土木屋さんに多いですが、利用者負担の原則に基づけば、一定の合理性を持ちます。運賃収入とは、利用料金のことなのですから。

交通ユニバーサル税は、一聴の価値はあると思います。鉄道は独立採算で、クルマは走行費だけというのは、公平ではありません。まさに、そのような公正な政策が求めれていると思います。しかしながら、一般財源なら理解できますが、特別財源なら癒着利益の温床です。それが国鉄改革の大きな教訓です。

鉄道貨物の必要性に関して

みなさんご承知の通り、JR貨物は、線路維持費用のうち、限界費用(”アボイダブルコスト”)しか負担していません。貨物輸送のために鉄道路線を維持するのなら、適切な利用負担を顧客に求めるべきでしょう(トラック運送者は、高速道路の建設費を負担してはいませんから、国の物流政策がイコールフッティング論に基づくべきなのは、もちろんです)。しかし、それが相当難しいのも事実です。JR貨物の真貝康一社長は「線路利用料の仕組みがなくなれば、未来永劫、完全民営化(株式上場)などできない」と述べておられます。

小田急が京王と合併すべき!?

多摩地域における京王と小田急の競合が資源の無駄と言うのなら、規模の小さい地方交通マーケットにバスと鉄道の両方を維持するのは、それこそ供給過剰です。それで過当競争になっているなら、守勢の小田急が撤退すればいいだけ。市場原理に基づいた行動が簡単にできない法解釈こそ、改革する必要があるでしょう。その意味で、小田急多摩線延伸計画は理解に苦しみます。京王相模原線の橋本延伸で先手を取られてしまっていますから。

私は小田急ユーザーですが、多摩急行東京メトロ千代田線直通)の利用率がいまいちなので、普通の急行(新宿行き)あるいは通勤急行(同)になった経緯があります。オーソドックな経済学に基づけば、過当競争のデメリットよりも、寡占企業のリスクを懸念します。

下北沢駅の改札分離は、多分にこの街特有の駅前活性化策の性質を持ちます。利用者にとっては、甚だ不愉快な話ですが(なぜ、小田急が地下二層化という愚策を取ったのか、考えてみてください)。キセル防止策を言うなら、ゾーン運賃の整備などが根治策です。当事者が合併すればいいと言うのは乱暴ではないでしょうか。類似例は全国にあります。雑な対処療法でしかありません。

赤字路線をどうやって維持するか

JR北に関しては、上下分離で、JRは運行のみの担当に移行すべきでしょう。区域ごとに分割してもいいかもしれません。
JR四国に関しては、これはもう身売りするしかないと思います。あんなにじゃんじゃん高速道路を作ったら、鉄道の存在価値が低下するのは必然です。

銚子電鉄に関しては、鉄道という形態に拘泥する理由が、もはや見当たりません。線路を剥がして、BRTもしくはバス転換した方が合理的です。鉄道の強みは、あくまで大量高速輸送にあるのですから。こんなのだから、”鉄道マニア”は世間知らずだと、鉄道企業から白い眼で見られるのですよ。

みなし上下分離すらできないのなら、補助金で全部面倒を見るなんて、原理的にはもっとできないはずです。地方自治体の支援が期待できないなら、国に求めるというのは、地方分権に逆行します。本源的には、道州制の導入と財源移転による地域ごとの支援が解決策です。どこまで補填するかは、地域の交通実状に基づいた個別判断が妥当です。

(書き下ろし。本文は、予告なく加筆修正することがあります)