山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

鉄道業界”非常事態”の軌跡と展望

「この未曾有の情勢と鉄道」(芝川三郎、鉄道ジャーナル 2020年7月号

長距離列車では人に移動と出会いを提供し、通勤列車では仕事や就学の機会を提供し、それをもってわが国の鉄道は社会の血液を自認してきた。ところが今は、動くな、会うな、一緒に働くなという要請がなされている。これでは鉄道の役割が死んだも同然であるが、同時に、人間を辞めろというに等しい事態である。

 

正直、新型コロナ禍で、どのような情報を発信すれば良いのか、かなり悩ましかった。
本稿では、今週の「週刊エコノミスト」での取り上げられ方を通して、鉄道業界がコロナ禍をどう乗り越えていけば良いのか、考えてみたい。

 

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よく知られているように、大手鉄道会社のメインの収入は通勤需要である。これがないと、正直、事業が成り立たないのである。電車は、ある程度は混んでくれないと困るのだ。
これが一気にテレワークになってしまった。今後の感染状況によっては、これが永続的に続くことも想定しないといけない。電車にもソーシャル・ディスタンスなどを適用したら、空気を運んでいるようなものである。激変緩和措置が必要である。地方鉄道の話ではない。鉄道の公共性に鑑みれば、公開大会社の大手私鉄と言えども、何らかの支援制度が必要になるかもしれないのだ。

 

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利用者にとっては、利便性・快適性を追求している”攻め”の姿勢が、裏目に出ている格好である。大規模プロジェクトを行っている企業ほど、市場の評価は厳しい。すぐに経営問題になることはないが、財務面で難しい舵取りを迫られるだろう。

 

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端的に言うと、JR東海は大丈夫なのか?という話である。JR東海は、「JR東海道新幹線株式会社」と言われるくらい、東海道新幹線の収入割合が大きい。実に9割近い。これが、コロナ禍で文字通りガラガラになってしまっている。その光景には凍えるほど寒気が走る。テレワークの普及によって、今までの営業出張が必ずしも必要でないばかりか、非効率であることが顕わになってきた。次に述べる、リニア建設の件もある。現在、最も動向が注視される問題である。

 

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この問題自体は、コロナ禍とは関係ないが、本当にリニアが必要なのか、プライシングに見合う需要は将来もあるのか、そもそも技術的に建設計画に無理はないのか、などが一般誌でも論じられるようになった。筆者などは「何を今更」と思うが、財投が3兆円も入っている。この流れを押し留めることはできるだろうか。

 

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キャッシュが入らないということは、黒字倒産の可能性があるということである。これを乗り切るには、短期資金供給をする必要がある。それを行うのは地銀ということになり、それを賄うための地銀債を買うのは日銀ということになる。ただでさえマーケットがじゃぶじゃぶの状態なのにさらにじゃぶじゃぶにして、どれほどの効果があるかは、筆者にはわからない。

さらに言えば、金額の大きさだけで物を見ると、問題の本質を見落とす。状況が緊迫しているのは、大手鉄道会社ではなく、むしろ地方鉄道であることに、想像を巡らせなければならない。

 

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そもそも、少子高齢化を見越して、小田急線など一部の例外を除き、通勤緩和のための投資は控えられてきた。東京都心の一部の路線の混雑が未だに放置されているのは、その理由による。しかしながら、将来数十年に渡って緩く考えていけばよかったものが、突然、今、根治策を考えなければいけなくなった。経営のことを抜きにして考えれば、全ての輸送サービスを、転換クロスシート(もしくは、セミクロスシート)にすれば良いだけなのだが、それには更なる投資が必要となるので、短期的なものとしては、何の対策にもならない。机上の空論である。

 

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この問題も、向こう2〜3年のうちに答えを出さなければいけないものだったが、そんな悠長なことは言っていられなくなった。キャッシュがないのだ。
筆者の解を述べれば、JR北は上下分離の上、公営に戻す(”上”が地方自治体、”下”が北海道とするのが適正だろう)しかないだろう。一方、JR四国に関して言えば、もう身売りするしかないだろう。外資に買い叩かれるかもしれないが、企業価値が乏しい以上、致し方ないだろう。しかしながら、これらは一夜にしてできるものではない。年単位の移行手続きが必要である。その間は、すでに述べたように、短期資金供給を受けてしのぐしかないだろう。

 

以上、経済誌を補助線に、今後の鉄道業界の展望を検証してみた。雑駁な内容になってしまい、申し訳ないです。

(書き下ろし)