山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

ベビーカー引きずり事故、焦点はこれだ。

一昨日起きた、東京メトロ半蔵門線のベビーカー引きずり事故について、昨日の朝日と今日の産経に詳しい記事が出ています。一歩間違えれば、大惨事になっていたので、この事故の原因は徹底究明されるべきですが、私は、ドアの異物検知度を上げるべきという意見には賛同しかねます。検知度を上げれば、今回のようなケースは防げますが、本来であれば、ドアの再開閉の必要がない時にもセンサーが反応してしまい、定時運行の妨げになります。

「何よりも、安全を優先してほしい」とは、よくあるナイーブな言説ですが、定時運行は、事故防止のための基本です。特に、日本の鉄道のように、大量高速輸送する路線では、定時運行することが、トラブルを起こすリスクを低減するのに有効な基本的手立てなのです。

 

さて、この事故で一番問題なのは、車掌が「非常ブレーキを使うのをためらった」と述べていることです。誤解して戴きたくないのは、この車掌を人格点検するようなことを主張しているのではないことです。何が原因で、そのような判断(「ためらう」)に至ったのか、車掌にできるだけ正確・詳細に話してもらう必要があります。東京メトロは、事故後「厳正に処分する」とコメントしていますが、もっとも優先されることは、事故原因の解明であり、処分を恐れて、車掌が本当のことを話さなくなるようなことは、避けなければなりません。アメリカなどでは、重大事故の当事者に対し、供述と引き換えに刑事免責する仕組みがあります。正直に全てを話してもらい、事故原因を解明するためです。2005年の福知山線脱線事故で明るみになった、いわゆる〈日勤教育〉が頭をよぎったのは、私だけでしょうか。非常ブレーキを躊躇なくかけられるように、対策を講じてほしいと思います。