のぞみ台車亀裂事故についての時系列見解
違うと思います。東海道新幹線は、”超過密ダイヤ”なんかではありませんが(過密だったら、時速300キロ弱なんて無理)、昼間でものぞみは1時間に10本以上走っているので、1本くらい間引いても、どうってことはない。問題の根底は、新大阪でJR西からJR東海に乗務員が引き継ぐ際に、「問題ない」と引き継いでしまったことにあると見ます。つまり、運行現場でも「異常あり」という認識が共有されなかった。この蛸壺的な組織構造が問題の核心ではないでしょうか。従って、運行指令が現場の声を黙殺したとかなんかとかいうのではない。JRの企業風土がどうのという話ではないでしょう。そもそも、運行指令は走行している列車を差配するのが役割であって、技術的な判断をする立場にはないはずですが。
【昨日の続き】(2017年12月22日)
実は、検査と言っても、いくつかのフェーズがある。具体的には、毎日行う1次検査(”仕業検査”)、週単位で行う2次検査(”交番検査”)、月単位で行う3次検査(”全般検査”)に分けられる。車両を解体し、全ての部品をチェックするのは3次検査である。通常の毎日の検査(1次検査)は、部分検査しかしない。1次検査で全てを検査するわけでは、ないのである。こうすることで、第一種の過誤が過大にならないようにしているのである。
統計学的には、誤りといっても、”あわて者の誤まり”(第一種の過誤)と”ぼんやり者の誤まり”(第二種の過誤)がある。両方をゼロに近けることはできないことが、数学的に証明されている。この両方が適切な範囲に落とし込まれるように、検査項目の設計をする。今回のインシデントは、現状の1次検査は範囲が狭すぎる(第二種の過誤が、大き過ぎる)ことをあぶりだしたのです。これは、科学的な妥当性の追求であって、安全最優先の意識が高い/低いといった問題ではないのですよ。
【その2】(2017年12月23日)
>トラブルの原因を調べている運輸安全委員会は、今回の亀裂は走行中に突発的に生じたものでなく、過去から存在した細かい傷が走行で広がったとの見方を示す。
2次検査(交番検査)の範囲を広めようという動きですね。トラブルの予兆を捉えるには、1次検査では無理です。妥当な決断だと思います。
【その3】(2017年12月25日)
絵に描いたような、スイスチーズモデルのインシデントといったところか。
>今回のトラブルでは、JR西日本の保守担当者と指令員とのコミュニケーションの不備が明るみに出たが、はたしてJR西日本とJR東海のコミュニケーションは適切に行われていたのだろうか。
この観点こそ、今回のインシデントの本質と見る。時系列でどこで誰に何が起きていたのか、丁寧に再現することが求められる。「コミュニケーションの問題」と言うだけでは、今回の問題解明にはならない。”安全最優先の企業文化ガー”などとしたり顔でのたまう輩は、邪魔だから引っ込んでろ。
【その4】(2017年12月27日)
当該技術インシデントについて、まだ何も情報が出ていないのにも関わらず、推測で記事を書くならまだしも、あろうことか社説で抜き出し合戦を繰り広げているとは。。百害あって一利なしの新聞社の自己満足を賞賛するとは、あまりに技術感覚に乏しく、科学技術に対する敬意が全く見られない。独善的な視点の特集記事に、今回も憤りを覚える。
【その5】(2017年12月28日)
ようやく、何が起こっていたか、判り始めて来た。
>指令員は隣にいる上司の問い合わせに応じるため受話器を耳から離し、
>この提案を聞いていなかったという。
ちょっとお粗末すぎる話なので、正直、状況をそのまま報告しているとは思えない。続報を待ちたい。
>指令員は「運転に支障があるなら保守担当が明確に伝えてくれる」、
>保守担当は「指令員がどこで点検するのかを調整してくれている」と思い込んでいたという。
これでは、”安全文化が未成熟”と言われても仕方がない。お互いに役割を押し付け合っていたからだ(逆に言うと、昨日以前の”安全文化”についての議論がいかに根拠のないものだったか、わかろうものである)。
【その6】(2017年12月28日)
>今回は小倉駅発車時(運転開始の約20分後)から、
>走行中の車内で異臭や異音が何度か報告されたようだが、
>このような報告は日常茶飯事で、
>そこから重大問題を発見して適切に対処するのは簡単ではない。
>マスコミが結果を見てから関係者の対応を叩くのは、
>誤解を恐れず言わせていただければ“後出しジャンケン”である。
以前にも書いた、検査における”第一種の過誤 ”と”第二種の過誤”をどう按配するかという課題が、この記事にも取り上げられている。
一方、「亀裂を見たことがない技術者が増えている」という状況は、かなり深刻な問題である。元凶は、国鉄分割民営化後に新卒採用をしばらく止めたことなので(これ自体は、仕方がない)、非言語的技術伝承の仕方をより真剣に考えないといけない。
【その8】(2018年1月9日)
安部誠治関西大教授「異常があったら運行を止めるという考え方が現場まで浸透していなかった。組織として問題がある」
どういう文脈でこのような見立てをしたのか判断材料が記事にないので、評価のしようがない。