山口修司の中辛鉄道コラム”ぶった斬り!!”

新進気鋭の交通評論家が、日常の鉄道ニュースに対し、独自の視点で鋭く切り込みます。

北陸新幹線の敦賀以西整備案、どさくさで決めるな!

みなさん、こんばんは。 今日の日テレニュースで、”北陸新幹線「小浜ルート」最有力へ”というニュースが出ています。

www.news24.jp

北陸新幹線福井県敦賀市から新大阪駅までの区間について、与党のプロジェクトチームが福井県小浜市を通るルートを「最有力」の案として採用を検討していることが明らかになった。
続きを読む

JR九州、東証上場決定!!

今日は、鉄道関係者には歴史的な日になりました。

JR九州東京証券取引所への株式上場が本日15日、承認されました。東証1部の見通しで上場日は10月25日。想定売り出し価格に基づく株式時価総額は約4000億円になる見通しで、今年では7月のLINEに次ぐ大型上場になるとのことです。

 

国鉄が分割民営化された約20年前、一体、誰がこのようなことを想像したでしょうか。

首都圏・東海道新幹線・関西圏/山陽新幹線というドル箱をそれぞれ持つ、JR本州3社ですら、せめてJR東だけでも黒字になってくれればという想いが、分割民営化当時はあったのです。分割民営化直前の国鉄は、売り上げの倍の額の借入金を毎年していました。鉄道事業は”斜陽化”が叫ばれ、鉄道事業だけで採算を取ることは、日本、いや世界中で不可能だと考えられていたのです(「ヨーロッパでは、鉄道が発達しているではないか」と思われるかもしれませんが、インフラ部分の経営は税金で担っています)。いわゆる三島会社(JR九州JR四国JR北海道)の経営は絶望的で、いずれ第二の国鉄改革が必要になるというのが、業界関係者の共通認識だったと思います。今日決まったJR九州の上場は、国鉄改革の想定を良い意味で裏切りました。

JR九州は、豪華設備を誇る”或る列車”や豪華クルーズトレインの”ななつ星”、それに”ソニック”や”かもめ”などの個性的なデザインの特急列車など、鉄道ファンにとっては話題に事欠かない鉄道会社ですが、それは鉄道経営が苦しいことの裏返しだったでしょう。実際、鉄道部門が黒字化したのは、ここ1年余りの話なのです。JR九州の主な収入源は、駅ビル・不動産事業などのサービス部門・非鉄道部門です。周辺産業に力を入れる余り、本業部門がおろそかになるのは、公共交通の観点からして考えものですが、JR九州に限って言えば、その心配はなさそうです。ようやく黒字化した鉄道部門をどのように軌道に乗せるかがこれからの課題でしょう。

株式上場は目標・ゴールではなく、手段すなわち新たなスタートです。JR九州がこれからどのような経営を見せるか、注目です。

【報道発表】
「三島会社の長男坊」意地の上場 JR九州、東証が承認:日本経済新聞
JR九州が上場へ、売出規模は約3920億円 | ロイター
JR九州の株式上場を承認 来月25日の予定 | NHKニュース
10月25日上場、JR九州の課題と拡大戦略 | 東洋経済オンライン(大坂直樹)

【参考書籍】
「国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」」葛西敬之(中央公論新社)
「未完の「国鉄改革」―巨大組織の崩壊と再生」葛西敬之(東洋経済新報社)
「なせばなる民営化JR東日本―自主自立の経営15年の軌跡」松田昌士(生産性出版)
「鉄道経営の21世紀戦略」角本良平(交通新聞社)
「鉄道政策の危機―日本型政治の打破」角本良平(成山堂書店)
「JRは2020年に存在するか」角本良平(流通経済大学出版社)
「国鉄解体―JRは行政改革の手本となるのか?」草野厚(講談社文庫)
「鉄客商売」唐池恒二(PHP研究所)
「企業研究」本ランキング!JR九州躍進の物語が売れる理由|人生にもっと本を。from honto|ダイヤモンド・オンライン

他、多数。

【10.24追記】
JR九州会長:旧国鉄赤字路線引き継ぎ苦難の道、逆境が多角化に弾み - Bloomberg

ホーム転落死亡事故は、ホームドアがあれば防げた。しかしながら…

視覚障害者の方が線路に転落し、電車にはねられて死亡するという大変痛ましい事故が起きてしまいました。視覚障害者のホームからの転落事故は年70件以上、発生しているといいます。これの防止策は、ホームドアを設置することです。100%完全に、このような事故を防ぐことができます。転落事故だけでなく、飛び込み自殺も完全に防ぐことができます。

では、なぜ鉄道会社はホームドアの設置をなかなか進めないのでしょうか?
例によって、鉄道会社が利益追求に走るあまり、利用者の安全をないがしろにしているのでしょうか?
そうではありません。
ホームドアの設置が進まない理由は、1)技術的理由と2)費用的理由、の2つがあります。

1)技術的理由
ホームドア自体の基本的な技術は、既に完成しています。したがって、一部の路線や駅ではホームドアが設置されています。では、なぜそれ以上の普及が難しいかというと、列車によって、扉の位置がバラバラだからです。ホームドアが設置されている路線では、すべての型番の車両の扉が同じ位置にあります。しかし、車両によって、3つドアだったり4つドアだったりする路線では、現在設置されているようなホームドアの導入はできません。
これを解決するため、ホームドア自体が動くような設備の研究が進んでいます。また、ドアではなく、上下にロープを上げ下げする設備の研究も進んでいます。これらは、普通のホームドアに比べると安全性は落ちますが、それでもあるのとないのとでは、安全性に天地雲泥の差があります。これらの設備はまだ研究段階であり、また、それ以外の技術的問題もあります。

2)費用的理由
あまりピンとこないでしょうが、整備新幹線1本作るのに、大体数千億円かかると言われています。これに比すと、数百億円単位のホームドアの設置は、鉄道会社にとってはあまり現実的ではないことがお分かり頂けると思います。これでは整備が進まないので、国交相補助金制度があります(国交省資料)。緊急度の高い路線から順番に導入していくことになるので、例えば首都圏(関東圏)でホームドアの設置が完了するのは、かなり先の話になります。
(例えば、私がいつも使っている小田急線では、土地買収に失敗した下北沢駅のホームが極狭になってしまっているのですが、今のところ、ホームドアの設置計画はありません)

ホームドアの設置は、この二つの点をクリアしないと前に進まないので、それまでは、ハード面ではなく、ソフト面で対応するしかありません。単純に配置人員は増やせられません。視覚障害者の方に言わせると、ホームドアのない駅を歩くのは、欄干のない橋を渡るようなものだと言います。みんなで知恵を絞る必要がああります。

【参照資料】
読売新聞 2016年8月19日社説
産経新聞 2016年8月19日社説
転落事故のホーム 視覚障害者が危険性を検証(NHK8月19日)
視覚障害者協会が転落防止策を提言へ 「こういう駅こそホームドアを」(読売新聞8月19日)

他、鉄道専門誌など

【その後のメディア報道】
東京メトロのホームドア導入はなぜ路線によって格差があるのか?(産経新聞8月28日)
JR東、新型ホームドアを試験導入へ=軽量化、設備コスト半額(時事通信9月7日)
ホームドア設置補助を増額 障害者転落事故受け政府方針(東京新聞9月8日)
「ホームドア設置急いで」 日盲連、転落事故受け、石井啓一国交相に駅安全強化要請(産経新聞9月16日) 

山口修司V.S.永瀬和彦@交通ビジネス塾

昨晩、ライトレール社主催の鉄道勉強会に参加してきました。今回の講師は、鉄道事故研究の第一人者に近い永瀬和彦KIT客員教授。私は、修士論文で、福知山線脱線事故を研究動機とした、組織事故防止のためのリスクマネジメントを研究していたので、いつか直接お会いして、いろいろお聞きしたいと思っていた方でした。昨日の議論を復元すると、単位レポートが書けちゃうので、できるだけ簡潔に。

私が事前に提出した質問は以下の通りでした。

福知山線脱線事故について
1.事故調査委員会が最終報告書で示唆した、事故原因といわゆる”日勤教育”との因果関係について。
2.メディアの成熟度について。例えば、「過密ダイヤ」「軽量化アルミ車両」「余裕時分」に対する誤解のありようについて
3.組織罰など、事故の責任論について。

【永瀬先生の見解】
1.死亡した運転士が大幅なスピード超過をした理由
死亡した運転士はオーバーランを連発しており、相当なスピードマニアだった?(メディアで言われているような、定時運行のプレッシャーによるものではない!)←こればかりは断言されていました。
事故調のレポートは捏造された、いんちきレポートと言って良い。

2.マスコミの言っていることはめちゃくちゃ。
運転時間の余裕は事故現場の塚口ー尼崎間で45秒あり、かなり余裕があった。裁判でも認定されている。
→ダイヤの余裕に関するメディアの見解は、明確な誤りである。

なんでマスコミ・新聞がめちゃくちゃなことをいうかというと、事実を書いても駅での売り上げが減ってしまうので、デスクや社会部長(かなりトップに近い方)が認めない。キヨスクで記事が見やすい配置をしているので、JRの悪口を書けば売れる。←参加者から同様の意見あり。

3.責任論
刑事責任を受けないからといって、現場の声をきかない、いい加減な経営者はほとんどいないのではないか。刑事責任以上に、社会的な制裁を受ける。それがJR・大手の経営陣の実体では?

私の最新見解は、外部ブログに書いてあります。ご関心のある方は、そちらもご覧ください。

ベビーカー引きずり事故、焦点はこれだ。

一昨日起きた、東京メトロ半蔵門線のベビーカー引きずり事故について、昨日の朝日と今日の産経に詳しい記事が出ています。一歩間違えれば、大惨事になっていたので、この事故の原因は徹底究明されるべきですが、私は、ドアの異物検知度を上げるべきという意見には賛同しかねます。検知度を上げれば、今回のようなケースは防げますが、本来であれば、ドアの再開閉の必要がない時にもセンサーが反応してしまい、定時運行の妨げになります。

「何よりも、安全を優先してほしい」とは、よくあるナイーブな言説ですが、定時運行は、事故防止のための基本です。特に、日本の鉄道のように、大量高速輸送する路線では、定時運行することが、トラブルを起こすリスクを低減するのに有効な基本的手立てなのです。

 

さて、この事故で一番問題なのは、車掌が「非常ブレーキを使うのをためらった」と述べていることです。誤解して戴きたくないのは、この車掌を人格点検するようなことを主張しているのではないことです。何が原因で、そのような判断(「ためらう」)に至ったのか、車掌にできるだけ正確・詳細に話してもらう必要があります。東京メトロは、事故後「厳正に処分する」とコメントしていますが、もっとも優先されることは、事故原因の解明であり、処分を恐れて、車掌が本当のことを話さなくなるようなことは、避けなければなりません。アメリカなどでは、重大事故の当事者に対し、供述と引き換えに刑事免責する仕組みがあります。正直に全てを話してもらい、事故原因を解明するためです。2005年の福知山線脱線事故で明るみになった、いわゆる〈日勤教育〉が頭をよぎったのは、私だけでしょうか。非常ブレーキを躊躇なくかけられるように、対策を講じてほしいと思います。 

北海道新幹線の確実な赤字とJR北海道の解体可能性

東洋経済オンラインが、鉄道専門誌である「鉄道ジャーナル」と連携し始めて久しいですが、今月19日発売の鉄道ジャーナル国鉄改革 まもなく30年」なる特集記事の抜粋版(”「並行在来線」が将来直面する深刻な問題ー人材と財源不足で"第2の国鉄改革"必要か”)が、昨日のことで恐縮ですが、アップされました。国鉄改革について議論すると、分厚い書籍が何冊もできてしまうので、(例えば、「未完の国鉄改革」「なせばなる民営化」「国鉄改革」(下写真参考)など)稿末から引用しましょう。

新幹線網が今後も拡充して並行在来線がますます増え、その維持が政策への依存度を強めるほど、国の支出は増す。あたかも新たな国有鉄道が誕生するようなものである。それが負担で耐えられなくなったとき、地方のローカル線から整理されていくという第二の国鉄改革というべきシナリオが再現され始めている。

本当に望まれる鉄道や交通システムはそのような姿なのか、持続可能な形にするには何を取捨選択するか、これから否が応でも議論せざるをえない。作った分の負担は増える――。その自明の理を改めて問う必要性が、整備新幹線並行在来線によって露呈してきたと考えられる。

はっきり申し上げると、そんなことは20年前から分かっていたことで、(例えば、先日鬼籍に入られた、交通評論家の角本良平氏は、90年代からこの議論をしており、『JRは2020年に存在するか』(2001年出版)という著作まであります)もともと赤字でしかも単線の路線に、余計に手のかかる複線(新幹線)を追加したら、全体として赤字が膨らむのは、中学生でもわかることです。昨年開業した北陸新幹線が好調なため、目が霞みがちですが、並行在来線の負担は基本的に税金です。これを運賃上乗せで対処したとしても、問題の根本は解決しません。負担者が納税者か利用者かの違いでしかないからです。今週土曜日に開通予定の北海道新幹線は、新幹線ですら赤字と見込まれています。(「北海道新幹線の平均乗車率はたったの25%!?」という記事が今日リリースされています)なぜ、課題山積のJR北海道が、赤字確実の新たな投資に乗ったかといえば、”並行在来線の経営分離”というマジックで、営業赤字幅が圧縮できるからにすぎません。既に遅すぎる感はありますが、”作った分の負担は増える――。その自明の理を改めて問う”ということを、国民的議論の俎上に乗せましょう。国鉄だけではなく、日本の鉄道全体が破綻する前に。

JR北海道解体論序説

今日の日経の地域総合面は、JR北海道についての記事でした。

悲願の新幹線秒読み JR北海道、苦しむ在来線
老朽化深刻、減便・廃線へ

専門家に聞く、事業の選択と集中が不可欠

結論から申しますと、JR北海道は、列車の運行に専念する運営会社とし、線路の整備などのハード面は経営分離した上で、地元自治体の北海道が直接経営するべきです。新幹線ですら赤字なのです。これは札幌に延伸しても同じです(「なんとかなる」というのは幻想です)。JR北海道の中で黒字なのは、道都札幌周辺を走る千歳線だけで、あとは全部赤字です。鉄道事業として成り立つ地域ではありません。鉄道は本来、大量輸送に適したモジュールだからです。まさに、「集中と選択」で、はっきり言うと、特急の走らない路線は、すべてバスに転換すべきです。

では、なぜJR北海道を作ったかと云えば、超赤字の国鉄改革をするには分割民営化しか手がなかったからです。(これについては、『未完の国鉄改革』『国鉄改革の真実』(いずれも葛西敬之JR東海代表取締役著)などを参照)民営化直後は、分割民営化した7社のうち、JR東日本だけでも黒字になれば、と思われていたのです。つまり、現在のスキームは永続的なものではなく、将来の見直しは想定の範囲内でした。紙幅の都合もあるので、より詳細な議論は、私の2年前の記事をお読みいただければと思います。東洋経済オンラインに転載されている、鉄道ジャーナルの記事も参考になります。